最近のDIYブームの影響で、古い市営住宅をおしゃれに改造して住みたいという若い世代が増えていますが、ここで最も大きな障壁となるのが、市営住宅特有の原状回復義務という壁です。市営住宅において「リフォームをしていいのか」という問いに対する答えは、構造を傷つけず、かつ退去時に完全に元の状態に戻せるのであれば、申請不要な範囲での軽微な装飾は可能であるという解釈が一般的です。ただし、この判断基準は自治体によって微妙に異なるため、注意が必要です。プロの視点からアドバイスをするならば、市営住宅でのセルフリフォームは、釘やネジを壁に直接打ち込まない手法を徹底すべきです。例えば、壁の印象を変えたいのであれば、ホッチキスで固定するタイプのフックや、突っ張り式の柱を利用して新しい壁を前面に作るラブリコやディアウォールといった製品が非常に有効です。これらを使えば、元の壁に穴を開けることなく棚を作ったり、好みの壁板を貼り付けたりすることが可能になります。床についても、既存のクッションフロアの上に、接着剤を使わずに敷き詰められるウッドカーペットや吸着式のフロアタイルを使用することで、退去時には剥がすだけで元の床を無傷で復元できます。ただし、注意しなければならないのは、キッチンの扉にカッティングシートを貼ったり、備え付けの棚にペンキを塗ったりする行為です。これらは一見すると簡単な装飾に見えますが、長期間貼ったままにするとシートの糊が残って変色したり、塗装を剥がす際に元の部材を傷めたりするため、自治体からは「リフォーム」とみなされ、多額の復旧費用を請求される原因となります。市営住宅はあくまで借り物であり、次の入居者に同じ状態で引き継ぐことが前提の住居です。そのため、自分の個性を出すのは家具やファブリック、そして構造を傷めない一時的な装飾に留めるのが賢明です。もし、本格的に壁を壊したり間取りを変えたりしたいのであれば、市営住宅ではなく中古の分譲マンションを購入することを検討すべきでしょう。決められたルールの中で、どこまでが自分の権利として認められるのかを正しく把握し、退去時のリスクを最小限に抑えながら暮らしを楽しむことが、市営住宅におけるリフォームの鉄則であり、賢い居住者のあり方です。
退去時の原状回復を考えた市営住宅のセルフリフォーム術